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新刊サンプル
新刊「たまきはる」サンプルです。
竜の子
「オンバーン」
大好きな貴方が俺の名を呼ぶ。いつだって貴方は格好良くて、俺の目標だった。
――否、これからもずっと。
俺の腕の中で、そのひとは力なく倒れ込んでいた。太陽のように輝く瞳をわずかに覗かせ、こちらを見上げている。
「……すまない。お前を置いていくなんて、兄失格だな……」
そんなこと絶対ないのに。反論するようにぎゅうっと彼を抱き締める。
「……苦しいぞ」
小さく笑いながら、力強く大きな手で額を撫でてくれた。俺は彼にそうされるのがいつも嬉しくてたまらないのに、ああ、もう我慢できないや。
「男だろう。泣くんじゃない」
腕をさらに伸ばし、頭をぐいと引き寄せられた。彼の肩口が濡れる。
「オンバーン」
少し掠れた彼の声。聞き逃さないよう、いつでも思い出せるよう、耳に焼き付ける。
「なあに、ルチャ兄」
「……大きくなったな」
優しく触れる彼の手に、頬を擦り寄せた。
「俺がいなくても平気だな?」
「……うん、大丈夫」
ちょっぴり、嘘をついた。本当はずっと一緒にいてほしい。ずっと背中を追いかけていたい。けれど、俺も彼みたいに格好良くありたいから。
良い子だ、と彼は小さく笑う。
「もう子供じゃないよ……」
自分が泣いているのか、笑っているのかわからなかった。彼を抱く腕に力を込め直す。
「……ルチャ兄?」
今まで見たことのないくらい、穏やかな寝顔だった。腕がぱたりと、落ちた。
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