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悪い先輩の話

 がさがさと音を鳴らし、立派な枝に舞い降りる。生い茂る新緑に身が包まれると、心が落ち着くのは何故だろう。


「オオスバメか」


 樹の主の声がする。てっきり寝ていると思っていたし、ずばり名前を当てられたので驚いた。


「よくわかったな」


「……わかるさ。だってよぉ、」


 理由を聞いて、腑に落ちた。



「……オオスバメ?」


「よ、ムクホーク」


 ぼう、と枝に留まり日向ぼっこをしていると頭上から声が降ってきた。声の主は少し面食らった表情を浮かべた後輩だ。


「良い天気だな」


「あ、ああ、そうだな」


 わざと話しかけてやると、ムクホークは歯切れの悪い返答をよこす。その様子があまりにも可笑しくて、気付かれないように小さく噴き出した。

 ……ムクホークは基本的に良いやつだ。自分のことは二の次、我儘もほとんど言わない。オオスバメとは同じタイプなこともあり、関係は良好だ。

 そんなよくできた後輩でも、譲れないものはあるらしい。彼の止まり木についてはちょっぴり独占欲を示すのがオオスバメにとっては微笑ましく、こうやって時々意地悪をしたくなる。

 以前、悪趣味だとジュカインに嗜められたが、どうにも止められない。


「……あ、ジュカインに呼ばれてたんだった」


 独り言にしては大きく呟き、枝から飛び立った。明らかにむすっとした顔で見送られ、また笑みが漏れる。


『……だってよぉ、お前、ムクホークより軽ぃから』


 からりと笑って答えたドダイトスを思い出す。

 ……お前達は、大丈夫だよ。だってこんなにも仲がいいんだから。



 後日。ジュカインの座っている枝の隣──オオスバメの定位置──に鎮座しているムクホークがいた。こちらに気が付いた彼は、ジュカインに悟られないよう目を細めた。どうやら先日のお返しらしい。

 ──よくできた後輩は、意外と負けず嫌いである。

 ならば先輩として受けて立ってやろう。

 彼とジュカインの間に割り込むべく、オオスバメは口の端を上げながら、一層力強く羽ばたいた。

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