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「お前美味そうだな」

 彼をじいと見つめながら、ぼそりと呟く。言葉を投げかけられた当のほんにんは少し引いたようだった。

 気の迷いでも、冗談でもない。

 進化前と同じくらいふっくらとした身体。鳥ポケモンの俺にとってはまさにごちそうだ。すべすべな手足は一口でいけるだろうだし、薄く綺麗な翅もきっと歯応えが面白い。

「何、急に」


 警戒を滲ませながらも、当時のように逃げ回ることはない。理由は単純、同じトレーナーのポケモンだから。一度食われかけた相手に、そんなに心を許していいのだろうか。

「簡単には食べられないよ。僕あの時より強くなったんだから」


 そう胸を張りつつも、言葉の端々と微かに羽同士が触れあう距離から、信頼を寄せられていることが伝わりどこかくすぐったい。


「わかんないぞ。俺だって強くなった」


 翼を大きく広げて凄んでみせると、いつのまにか俺の羽にも付着していた彼の鱗粉がきらきらと宙に舞った。



 夕焼け空には早すぎる銀砂の星。きらきら光る鱗粉を残しながら、彼は段々と遠ざかっていく。その姿をボール越しに見つめながら、ああ、やはり食べておくべきだったのかもしれないと、そう思った。

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