Pilina
『今日はどんなところに行けるかなぁ』
隣を飛んでいるアーゴヨンが、楽しそうにくるりと一回転した。
"ソルガレオ"である自分の責務として、ウルトラホールの見回りをしているのに、時折アーゴヨンは着いてきてくれる。
多分、アーゴヨンは遠足程度に思っているけれど、実際には大変なことも多い。それを嫌な顔ひとつせず、むしろ楽しんですらいるアーゴヨンに、ぼくはひっそり感謝していた。
『あ、あそこ、あいてるよ!』
少し遠くにウルトラホールを見つけるや否や、アーゴヨンはぴゅんっと近寄った。そして振り返ったかと思えばそわそわとぼくを呼ぶ。
ふたりでそうっと顔を覗かせると、今まで見たことのない──いや、どことなくマリエシティに似た街並みが広がっている。
古めかしい建物が多く立ち並んでいるが、どこかが壊れたり荒らされたりした様子はない。どうやら平和な時代で、平和な場所のようだ。ほっと息を吐く。
『ねえ! ほしぐも! 見て!』
興奮したアーゴヨンの声に、びくりと身体が跳ねた。いつの間にか意識を張り詰めていたらしい。
首を巡らし、アーゴヨンの指す方角に目を向けると──。
『すごい……』
──眼下には、鮮やかな色彩が広がっていた。
あまりの美しさに、思わず息を呑んだ。
よく見れば、それはいろとりどりの葉を付けた木々で、風にさらさらと揺れていた。
『ね! とってもキレイ!』
アーゴヨンの目がキラキラしているのを見て、ぼくの胸もほわっと温かくなった。誰かと気持ちをわかちあうのは、とても素敵なことだ。
『ねえ、もっと近くで見たらダメかな……』
上目遣いで尋ねられ、少し考えた。大型のポケモンがふたりも揃っていれば、騒ぎになる可能性は高い。平和なこの世界で姿を見せるのは、できだけ控えるべきだ。
……でも、それでも。ぼく自身も、もっとあの木々を近くで見てみたかった。
『……ヒトに見られないように、行こう』
『うん!』
ヒトが来なさそうな山頂近くに目標を定めて、こっそり急いで降り立った。きょろきょろ見回しても、ヒトやポケモンの気配はない。
……ここなら大丈夫そうだ。
腰を落ち着けて顔を上げると、様々な色に染まった小さな葉が鼻先に触れた。ヒトの手のように先が別れた不思議な形をしている。
……こっちには、弾けるような黄色。
あっちには、瑞々しい新緑。
目に焼き付く夕焼け色に、燃えるような赤が並んで。
また、きらりと黄金色が輝いた。
それらの色彩を受け止めるのは──雲ひとつない空。はっとするように、澄んだ水色。
……ああ、まるで、
『みんなみたいだね』
ひらひらと舞う黄色の葉っぱと戯れながら、アーゴヨンが呟いた。
『……ぼくも、そう思った』
みんなが誰を指すかなんて、きっと浮かんでいる顔は同じ。好き、好き、大好きな、ぼくの大切な仲間たち。
遠く離れていても、ぼくたちは共に生きていく。
──とても、素敵なことだ。
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