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隕石の冬

 ──脚が、動かない。

 それが凍っているのだと気づいたのは、赤い爪が氷越しに見えたから。

 次いで、感じる、凍えるような冷たさ。


 ──記憶が、遡る。


 さむい。

 ちからが、はいらない。

 おなかがすいた。

 だれもいない。


 ……さみしい。



「ねえ、ちょっと!」


 ごつり。

 豪快に音を立てた頭突きに、はっと我に返った。

 辺りからは、がやがやと賑やかな声。

 ヒレをぐ、ぱ、と動かしてみる。

 ほう、と小さく息を吐いた。

「そんな反応されたら悪戯しがいがないよ」


 不満げな声に目線を下げれば、強面なポケモンがいた。たしか、オニゴーリと紹介されていた。


「……ごめ、ん?」


「怒るところだと思うけど」


 むすりとした顔はなりを潜め、今度はくすくす笑い始める。ころころとよく変わる表情だ。


「冷たいの、苦手なの?」


「ちょっとだけ」

「変なの。自分でこおりタイプの技使うのに?」


 身体全体を傾げ、尋ねられる。釣られて、ぼくも身体を傾ける。


「自分で使うのは、心の準備ができてるから」

 ふーん、と興味なさげな相槌が返ってきた。……彼が聞いてきたのに。

「じゃあ、克服しないとね」


 へ、と口をぽかんと開けば、彼はにやりと笑う。


「こおり技をくらう度に固まってちゃバトルにならないでしょ。付き合ってあげる」


 ──ふよふよと浮かび、目線を合わせられる。

 こどもみたいに、悪戯っぽく光る瞳。

 ……もしかしたら、彼は予想していたより、優しいのかもしれない。直感的に、そう思った。

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