蛇の道
丸太に腰掛け、月を見ていた彼。
眠れないと言いつつ、やはり疲れが出たのだろう。うつらうつらと船を漕ぎ始めた。
タケシ達に促され、緩慢な動きで寝袋に身体を横たえる。それを見届けたわたしは、こっそりボールの中から飛び出した。
少し眉根を寄せて眠る彼。何かが閃いて、するりと彼の胸元に身を潜り込ませた。
ねえ、あなた。わたしをピカチュウと間違えてくれるのかしら。
「ん……?」
身じろぎをして、重たい瞼が半分ぐらい開いた。目が合って、彼はふにゃりと笑う。
「どうしたんだ、ツタージャ……?」
──ああ、わかっていた。わたしと、相棒を間違えるはずがないことぐらい。
もし、わたしを「ピカチュウ」なんて呼ぶ彼だったら、とっくにわたしはここにいないのに。
彼を試してしまったのは、きっと──羨ましかったのだろう。『相棒』という位置にいるピカチュウが。二度と手に入らない、自分から捨ててしまったもの。
わたしがあなたと逸れたら、あなたはこれほど必死にわたしを探してくれるのかしら。
「……寂しいのか?」
彼の温かい手が、わたしの背中を撫でる。こわばった気持ちが少しだけほぐれた。
「ここは、イッシュ地方からも遠いし……ミジュマルとか、チャオブーとか……みんなも、いないもんな」
彼の呟きは全くの検討違いだったけれど、彼の温もりに包まれるのは悪くない。
やがて、琥珀色の瞳は隠れてしまったけれど、手のひらはわたしの背に添えられたままだった。
今日だけは彼をわたしのものして、このまま眠ってしまおうか、なんて。独占欲がちらりと鎌首をもたげたけれど──相棒がいないからって、その席を奪うなんて、わたしのちっぽけなプライドが許さない。
彼を起こさないよう、腕から抜け出す。そして、近くのひんやりした岩の上でとぐろを巻いた。
……彼の相棒も、今頃は寒い夜を過ごしているのだろう。
月明かりに照らされた、少しだけ穏やかになった彼の寝顔を眺めながら、そう思った。
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