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蜜月

 ──ソレは、音もなく枕元に降り立ち。


「いててててっ!?」


 頭を容赦なく何度も小突かれ飛び起きる。辺りは闇に包まれており、寝付いてからまだそれほど経っていないようだ。


「──起きたか」


 静かな声の主、俺を無理矢理目覚めさせたそのひとは、闇に紛れぬ翼を持つ──。


「起こすなら、もう少し優しく起こしてほしいんだけど」


 ヨルノズク、と欠伸混じりに彼の名を呼ぶ。


「一度寝始めたら、貴様は滅多なことをしない限り起きないからな」


 悪びれもせず告げる彼に、思わず苦笑いした。もし俺が昼間、寝ているヨルノズクを起こそうものなら、きっとエアスラッシュの刑なのに。

 ……ずるいなぁ。


「何が」


「なんでもないよ」


 言ったところで、彼は痛くも痒くもないだろうし。


「それよりさ、何か用があって起こしたんじゃないのか?」


「ああ──」


 こくりと小さく頷き、彼は告げる。

 月食がある、と。



「……そろそろか」


 いっとう高い木のてっぺん。ふたりで並んで腰掛け、見上げるは夜空に浮かぶ月。今は煌々と輝いているこの球体が、一体どんな風に隠れてしまうのだろう。


「あ、始まった?」


 ゆっくり、ゆっくり端から欠けていく月。なぜだろう、その変化から目が離せなくて、飽きることなく見つめてしまう。気付けば、まんまるだった円は三日月程の細さになっている。


「全部隠れたら月、見えなくなるのかな」


「見ていればわかる」


 素っ気なく返され仕方なく目線を頭上に戻す。するとそこには——、


「赤銅色、と言うそうだ」


 いつもなら金色にくり抜かれている夜空。今はそこから暗い橙色が覗いている。ああ、この色は——。

 ちらりとヨルノズクを盗み見ると、目を細めて月を眺めている。


「……何考えてるか当ててやろうか」


「は?」


 眉間に皺を寄せ、煩わしそうに振り向いた彼の顔。


「羽の色のことだろ」


 まんまるに見開かれたその瞳は、まるで空に浮かぶ赤銅色。


「お、当たった? 俺もみやぶる使えるようになったかな」


「……言ってろ」


 ぷいと顔を背けられたその先で、赤銅色が薄れ、黄金の月光が漏れ始めていた。



 ちか、と眩しい光が瞼を刺す。昨夜はいつもより夜更かししたから、つい寝過ぎてしまったようだ。なんとなく気怠くて、ごろりと寝返りをうつ。


「……なにこれ」


 視界に広がる、蜜色。赤銅色より少し、薄い。身を起こして見ると、そこには小さな瓶がぽつりとひとつ。

 昨晩付き合わせたお礼、ということなのだろうか。


「……甘いなぁ」


 律儀に俺の好物を用意する彼も。

 ……振り回されるのも悪くないな、と思っている俺も。

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