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甘く

 がぶりと、ドダイトスに噛み付かれた。顔の真横、首筋のあたり。所謂「甘噛み」というものだろうが、馬力のある彼に噛み付かれればそれなりに痛い。

「ドダイトス、」

「あ、悪ぃ」


 はっと我に帰った彼がようやく俺を解放する。少しだけ、ずきずきとした痛みが残った。


「すまん、ついな」


 へにゃりと謝りながらドダイトスは自身が噛み付いたあたりに顔を埋め――あろうことか、そこを舐めた。

 瞬間、痛みと、よくわからない何かが込み上げてきて、思わず彼を翼で殴り付けた。


「痛ぇな」

「……こっちの台詞だ」


 じ、と俺を見上げたドダイトスを睨む。その一方で、口元が緩まないよう必死に堪えた。「甘噛み」は彼の親愛の証だ。ナエトルの頃はサトシに向かって噛み付いている姿をよく見たものだった。

 進化してからというもの、その癖はなりを潜めていたのだが。今、こうして噛み付かれたということは。


「悪かったって」


「……ごめんで済んだら警察はいらない」


「ったく。じゃあそうだな」


 これやるよ、とドダイトスが身体を揺らす。がさがさと葉が鳴り、つややかなきのみが一つ落ちてきた。

 ……ああ、これは。

「初物。今年は養分溜め込んだからきっと美味いぜ」


 言われる間でもなく、そんなことは、俺が一番知っている。一番近くで、花が咲き、萎み、実が成る様子を見ていたのだから。

 ……許されるなら、俺が一番に食べたいと願っていることを彼は知っているのだろうか。

「くれるなら、もらう」


「おう、食え食え」

 屈託なく笑う彼の隣で齧ったそれは、格別に甘く――。

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