猛火
最初は、境遇が似ているからだと思った。
——無理はするなよ、と肩を叩いてくれたのは。
自分と同じように、他のトレーナーの元からサトシに辿り着いたブイゼル。僕にしてみれば、親近感を抱くなと言う方が無理だろう。
——笑顔で見送られた彼と、見放された自分とでは、天と地の差があるけれど。
けれど旅を続けるうちに、彼は根が世話焼きなのだろう、と察するようになった。パチリスやピンプク、フカマル達の面倒を見たり、ポッチャマの話し相手になっていたりと、周りによく気を配っていたと思う。
それでも、やっぱり、僕には特に声をかけてくれた。これは気のせいではない、はずだ。
*
「なんだか最近、もやもやするんだ」
「……へえ?」
僕の隣に座るブイゼルは腕を組み、先を促すように小さく首を傾げた。
「君が、僕にもみんなにも優しいから」
「……はあ?」
彼は何とも言えない表情を浮かべている。無理もない。突然呼び止められて、要領を得ない言葉を投げかけられているのだから。実のところ、口にしている僕ですら、何を話しているのかよくわかっていない。
君が優しいのは昔からそうなのに。この頃は、君が僕以外に優しい言葉をかけるのを見ると、胸に針が刺さったようになる。
そんなことをぽつぽつ話していると、ブイゼルはおもむろに意地悪そうな表情を浮かべた。ゴウカザル、と静かに名を呼ばれ、心臓が跳ねた。
「お前、それは——」
私のこと、好きなんじゃないのか。
言葉とともに、頬に手が添えられ、
その滑らかな感触に、
急に詰められた距離に、
かっと、炎が燃え、
——次の瞬間、意識が飛んだ。
*
ばしゃりと、顔面に水を浴びせられ、我に返った。
「ちったぁ落ち着けよ」
眼下、至近距離に呆れたようなブイゼルの顔。無意識のうちに彼に覆い被さっていたらしい。
「……なんで?」
「俺の台詞だ馬鹿」
元はと言えば君があんなこと言ったからなのに。ぶつくさ不貞腐れていると、ブイゼルはくすりと笑った。
「悪かったよ。お前があんまりにも馬鹿真面目に悩んでるもんだから」
「また馬鹿って言った」
ブイゼルは答えず、くすくす笑っている。
それにしても、先ほどから彼が抜け出す素振りも見せず、俺の腕の中に大人しく収まっているのはどういう意図なのか。
「で、どうなんだ」
己に問い質さなくともわかる。
……あれは、嫉妬だ。仲間に向けられるたぐいの感情ではなく、もっとどろどろした、後ろ暗さを含んだ気持ちだ。
「……うん、俺、ブイゼルが好きだよ」
真っ直ぐ、彼の目を見つめながら、告げる。口に出せば、すとんと胸に落ちた。ああ、これが、誰かを好きになるということなのか。もやもやの正体が判明し、どこか晴れやかな気分さえ感じる。
ブイゼルは、俺の告白に、余裕そうな表情は消え失せ、面食らったように目を丸くしていた。瞼を伏せ、小さく溜息を吐いた次の瞬間、きらりと光る瞳が覗く。
「……ま、試してみろよ」
何を、と問う前に、おでこをごつりとぶつけられた。悪戯っぽい顔が目と鼻の先だ。
再び、炎が燃え上がったことは言う間でもない。
Comentarios